ねこが好きなのはカルカンですが、僕が好きなのはかるかんです。
かるかんを知らないという方も少なくないかもしれません。
知ってるという方の中でも、かるかんと「かるかんまんじゅう」を同じものと思っている方はかなりいるのではないでしょうか。それはアカペラのことを「ハモネプ」と言っているようなもの、と言っても過言ではないでしょう。
少し話が逸れましたが、かるかんとは鹿児島県特産の和菓子で、白くて四角い形をしています。見た目だけであだ名をつけるとすれば「漂白したカステラ」もしくは「出来の荒い激落ちくんのパチもん」とでも言いましょうか。
ちなみにかるかんまんじゅうは、饅頭の形をしたかるかんの中に餡が入っているものです。なので、かるかんまんじゅうを知っている方にかるかんの説明をするならば、「外側」が四角に固まっているもの、と言うと伝わりやすいかもしれません。
餡とマッチしてしまうほどですから、お菓子と言えどもそれほど甘くはなく、食感は、なんと言いましょうか、「ぽそっ」としています。良い意味です。
控えめな甘味と素朴な食感が、心をほっくりとさせてくれる、かるかんは、そんなお菓子なのです。
僕がかるかんを好きになったきっかけは、中学校の修学旅行で行った鹿児島で、初めてかるかんを食べた時、ではなく、高校の家庭科の授業中に、家庭科の資料集に載っていたかるかんの写真を見た時でした。
とても退屈な座学の家庭科の授業中、思えばあれはお昼前だったかもしれません。写真を目にしたことで、脳に、体に蘇る、かるかんの甘味と食感。そして沸き上がる衝動。
「かるかん…かるかんが食べたい」
しかし前述のとおり、かるかんは鹿児島県の特産品。コンビニやスーパーに置いてあるほど一般的なお菓子でもありません。その授業の日はもちろん、それからしばらくの期間、僕はかるかんを食べるどころか、手にいれることもできませんでした。
そんな僕の気持ちをまるで嘲笑うように、毎週やってくる家庭科の授業。資料集の中の、食べられないかるかんを見つめる僕。つらい日々でした。
どれほどの時が流れたかわかりません。ある日、鹿児島に行ったという友人が、お土産を持って学校にやってきました。
「まさか…!」
お土産をみんなに振る舞おうとする友人が袋から出したのは、有名な「かすたどん」、かるかんまんじゅう、そして、僕が求め続けていた、かるかんでした。
今の僕だったら、真っ先にかるかんを取りに行けたかもしれません。ただ高校の頃の僕は今よりも引っ込み思案だったために、残り物を待つことしかできませんでした。
祈るしかない僕。次々とお土産を手にする他の友人達。そしてやっと僕に、お土産をもらう順番が回ってきました。
残っていたのは、そう、かるかんでした。
カスタードクリームの入っているかすたどん、餡の入っているかるかんまんじゅうに比べて、かるかんが地味だと思われたのでしょうか。いや、理由などどうでもいいのです。僕はかるかんと、やっとのことで運命の再会をすることができたのです。
「やっと、会えたね…」
そんなことは全く言ってはいませんが、友人からかるかんを受け取り、包装を開け、口に運びました。
控えめな甘さ。ぽそっとした食感。
長い間僕の脳が僕の体に想像させ続けたものが、今度はかるかんの方から、僕の体を通って脳に伝わっていったのです。
「やっぱり、間違いなかった」
ほっくりした心の中でそんなことを思いながら、僕はかるかんを飲みこみました。
こうして、かるかんは紛れもなく僕の好物になったのです。
長くなりましたが、僕はかるかんよりもグリーンカレーの方が好きです。